成年後見制度の担い手不足|後見人が見つからない問題と対策

「親なき後、この子の財産や契約はいったい誰が守ってくれるのか」——知的障害のあるわが子の将来を考えるとき、成年後見制度に行き着く保護者は少なくありません。ところが、いざ申し立てようとすると「適切な後見人が見つからない」「家族では負担が大きすぎる」という壁に直面します。本記事では、深刻化する後見人の担い手不足の実態と、保護者として今できる対策を、落ち着いて整理していきます。

この記事のポイント

  • 成年後見制度の担い手不足が、なぜ・どのように起きているのかを理解できる
  • 親族後見人・専門職後見人それぞれの課題と限界がわかる
  • 市民後見人や法人後見など、新しい担い手の動きを知ることができる
  • 後見人が見つからないときに保護者が取れる現実的な選択肢を整理できる
  • 制度に頼りきらない「親なき後」の備え方のヒントが得られる

成年後見制度とはなにか、改めて整理する

判断能力を補う仕組みとしての後見

成年後見制度は、知的障害・精神障害・認知症などによって判断能力が不十分な人の財産管理や契約行為を、本人に代わって支援する仕組みです。家庭裁判所が選任した後見人等が、預貯金の管理、福祉サービスの契約、施設入所の手続きなどを本人の利益のために行います。発達障害や知的障害のある子どもが18歳を迎え、成人として法的な責任を負う立場になったとき、契約トラブルや財産管理の不安から、この制度を検討する家庭が増えています。

「後見・保佐・補助」の3類型

制度は本人の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3つに分かれます。判断能力がほとんどない場合は「後見」、著しく不十分な場合は「保佐」、不十分な場合は「補助」が選ばれます。重度の知的障害がある場合は「後見」となるケースが多いとされますが、本人の状態は一人ひとり異なるため、どの類型が適切かは医師の診断や家庭裁判所の判断によって変わります。

一度始めると簡単にはやめられない

見落とされがちなのが、成年後見制度は原則として本人の判断能力が回復しない限り、途中でやめることができないという点です。知的障害の場合は生涯にわたって続くことが一般的で、その間ずっと後見人が必要になります。だからこそ「誰が担うのか」という担い手の問題が、長期にわたって家庭にのしかかってくるのです。

深刻化する後見人の担い手不足の実態

利用者は増え続けている

成年後見制度の利用者数は年々増加しており、全国で20万人を超える規模になっているとされます。高齢化による認知症の人の増加に加え、障害のある人の親世代の高齢化も背景にあります。一方で、後見人の供給は需要に追いついていません。利用が想定される人の数に比べ、実際に制度を利用している人はごく一部にとどまるという指摘もあり、潜在的な需要はさらに大きいと考えられています。

専門職にも限界がある

弁護士・司法書士・社会福祉士といった専門職後見人は、制度の重要な担い手です。しかし、専門職の人数には限りがあり、一人が担当できる件数にも実務上の上限があります。とくに地方では専門職そのものが少なく、引き受け手を探すこと自体が難しい地域もあります。報酬の問題もあり、財産が少ないケースでは専門職が敬遠しがちだという現実も指摘されています。

地域による格差が大きい

後見人の担い手がどれだけ確保できるかは、地域によって大きく異なります。都市部では専門職や法人後見が比較的充実している一方、過疎地域では候補者が乏しく、家庭裁判所が選任に苦慮するケースもあります。市民後見人の養成状況や中核機関の整備状況も自治体ごとに差があり、お住まいの地域の実情を確認することが欠かせません。

成年後見制度の利用支援については、お住まいの市区町村に設置が進められている「中核機関」や、社会福祉協議会の権利擁護センターが相談窓口になっています。制度の使い方や後見人の探し方について、まずはこうした地域の窓口に問い合わせてみることをおすすめします。窓口の名称や対応範囲は地域により異なります。

親族後見人という選択肢とその限界

かつては親族が中心だった

制度開始当初は、後見人の多くを親や兄弟姉妹などの親族が担っていました。本人をよく知る家族が支援するのは自然なことであり、本人にとっても安心感があります。現在でも、親が子どもの後見人となるケースは少なくありません。

親自身の高齢化という壁

しかし、親が後見人になっても、親もまた歳を重ねます。「親なき後」を見据えたとき、親が後見人を続けられなくなった後に誰が引き継ぐのか、という問題が必ず生じます。きょうだいに引き継いでもらうことを期待する家庭もありますが、きょうだいにも自分の生活があり、過度な負担を負わせることへのためらいを感じる保護者は多いものです。

親族後見への監督強化と負担

近年は、親族後見人による財産の不適切な管理を防ぐため、家庭裁判所の監督が強化される傾向にあります。後見監督人がつけられたり、定期的な報告が求められたりすることで、善意の親族にとっても事務的な負担が増えています。報告書類の作成や財産目録の管理に不慣れな家族には、想像以上に重い作業となることがあります。

市民後見人・法人後見という新しい担い手

市民後見人の養成が進む

専門職だけでは担い手が足りない現状を受けて、一般市民が研修を受けて後見人となる「市民後見人」の養成が各地で進められています。地域住民が地域の人を支えるという理念に基づき、自治体や社会福祉協議会が養成研修を実施しています。財産が少なく身上監護が中心となるケースなどで、市民後見人が活躍する場面が広がりつつあります。

法人後見の広がり

社会福祉法人やNPO法人などの法人が後見人となる「法人後見」も、重要な担い手として注目されています。個人と違って担当者が交代しても法人として継続できるため、長期にわたる支援が必要な知的障害の人にとって安定性が期待できます。組織として複数の目でチェックできる点もメリットとされます。

新しい担い手にも課題はある

市民後見人や法人後見は希望の光である一方、課題も残されています。市民後見人は専門知識に限界があり、複雑な財産管理や法的トラブルへの対応には専門職の支援が必要です。法人後見も、引き受けられる件数に限りがあり、すべての地域で利用できるわけではありません。これらの仕組みを支える中核機関の体制づくりが、今後の鍵を握ると考えられています。

どの後見類型が本人に適しているか、また親族後見・専門職後見・法人後見のどれを選ぶべきかは、本人の状態や家庭の事情によって大きく異なります。判断に迷う場合は、必ず家庭裁判所、弁護士・司法書士などの専門職、または地域の権利擁護センターに相談し、専門家の意見を踏まえて検討してください。

後見人が見つからないとき保護者ができること

まずは中核機関・権利擁護センターへ

「後見人が見つからない」と一人で抱え込む前に、地域の中核機関や社会福祉協議会の権利擁護センターに相談することが第一歩です。これらの機関は後見人候補者とのマッチングや、制度利用の相談に応じています。地域によっては後見人候補者のリストを持っているところもあり、適切な担い手につながる可能性があります。

市町村長申立てという方法

身寄りがない、あるいは親族が申し立てられない事情がある場合、市町村長が本人に代わって後見開始の申立てを行う「市町村長申立て」という制度があります。親が高齢で申立てが難しくなった将来に備え、こうした仕組みがあることを知っておくと安心です。利用要件は地域により異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

成年後見制度利用支援事業の活用

後見人への報酬負担が難しい低所得世帯のために、報酬の一部を助成する「成年後見制度利用支援事業」を実施している自治体があります。これにより、財産が少ないケースでも専門職後見が引き受けやすくなる効果が期待されます。助成の有無や金額、対象範囲は地域により大きく異なるため、お住まいの自治体に確認してください。

制度に頼りきらない「親なき後」の備え

日常生活自立支援事業との使い分け

判断能力が比較的保たれている場合は、成年後見制度よりも軽やかに利用できる「日常生活自立支援事業」が選択肢になります。社会福祉協議会が福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理を支援する仕組みで、本人の意思を尊重しながら支援を受けられます。本人の状態に応じて、後見制度と使い分けることが現実的です。

信託や任意後見の検討

財産管理の手段としては、家族信託や、本人の判断能力があるうちに将来の後見人を契約で定めておく「任意後見」も検討に値します。ただし、知的障害が重い場合は任意後見契約を本人が結ぶことが難しいこともあり、本人の状態に応じた慎重な判断が必要です。これらの制度は専門的な内容を含むため、専門家への相談が欠かせません。

「お金」と「暮らし」を分けて考える

親なき後の備えは、財産管理だけでなく、日々の暮らしを誰が支えるかという視点も重要です。後見人は財産と契約を守る役割が中心であり、日常の見守りや生活の充実までを担うわけではありません。相談支援専門員やグループホーム、地域のつながりなど、複数の支えを組み合わせて、本人を包む輪をつくっておくことが大切です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 後見人はどのくらいで見つかりますか

申立てから後見人が選任されるまでの期間は、ケースや地域によって異なりますが、数か月程度かかることが一般的とされます。適切な候補者が見つかりにくい場合はさらに時間がかかることもあります。早めに地域の窓口へ相談しておくことをおすすめします。

Q2. 親が後見人になれますか

親が後見人になることは可能で、実際に多くの家庭で親が選任されています。ただし最終的に選任するのは家庭裁判所であり、財産が多いケースなどでは後見監督人がつくこともあります。親の高齢化を見据え、次の担い手も一緒に考えておくと安心です。

Q3. 後見人への報酬はどのくらいかかりますか

専門職後見人の報酬は本人の財産額などをもとに家庭裁判所が決めるため、一概には言えませんが、月額数千円から数万円程度になることが多いとされます。負担が難しい場合は、自治体の利用支援事業による助成を確認してください。

Q4. 一度選んだ後見人を変えられますか

後見人との相性が合わない、不適切な対応があるといった場合には、家庭裁判所に申し立てて交代を求めることができます。ただし正当な理由が必要で、簡単に変更できるわけではありません。困ったときはまず権利擁護センターに相談しましょう。

Q5. 子どもが軽度の場合も後見制度は必要ですか

判断能力の程度によっては、後見ではなく保佐や補助、あるいは日常生活自立支援事業で十分なこともあります。一律に後見制度を選ぶのではなく、本人の状態に合った支援を選ぶことが大切です。専門家と相談しながら検討してください。

まとめ
成年後見制度の担い手不足は、利用者の増加と専門職の限界、地域格差が重なって生じている構造的な問題です。けれども、市民後見人や法人後見の養成、中核機関の整備、利用支援事業の拡充など、状況を改善しようとする動きも各地で確実に進んでいます。保護者にできるのは、制度に頼りきるのではなく、地域の相談窓口とつながり、財産管理と日常の支えを分けて備え、複数の選択肢を早めに知っておくことです。「親なき後」の不安は完全には消えないかもしれませんが、一つひとつ準備を重ねることで、わが子を支える輪は確かに広がっていきます。

本記事は2026年9月時点の一般的な情報をもとに、保護者向けにわかりやすく解説したものです。制度の内容・要件・報酬・助成などは法改正や自治体の方針によって変わることがあり、地域により異なります。実際の手続きや判断にあたっては、家庭裁判所、弁護士・司法書士などの専門職、お住まいの市区町村の中核機関や社会福祉協議会など、公的・専門的な窓口に必ずご確認ください。本記事は特定の制度利用や手続きを保証するものではありません。

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